編集長のブログ69 4番4本抜歯矯正が生体に与えた影響とは
「季刊 歯科医療」2018年春号の舩津雅彦先生の連載に、上下左右の4番を4本とも抜歯した矯正治療で、予後が非常に不良となり、遠方よりふなつデンタルクリニックを訪ねてきた症例が掲載されています。
前医の歯科矯正専門医で抜歯された後、どこで咬んでよいのかわからなくなり、激しい不定愁訴等に悩まされているそうです。
(本誌101頁より引用)
まだ20歳の男子大学生で母親に付き添われての来院ですが、現在は大学も休学し、中退も視野に入れざるを得ない状況とのこと。私の若い頃を思い出しても、大学生活に慣れて、しかもまだ卒論や就職活動には余裕があるという、人生で一番楽しい時期です。その輝く青春の時を、歯科治療のために台無しにしてしまってよいのかと深く考え入りました。
上の初診時の写真を見ても、口腔にさほどスペースが不足しているとも思えません。逆にこの抜いた後のスペースを見たときに、4本のシングルスタンディングのインプラント治療を提案したくなるのは私だけでしょうか。
モデルさんや俳優さんならまだしも、男子大学生の健全歯を4本とも抜いてきれいに歯を並べる歯列矯正治療と、その対価としての「咬めない咬合」とでは、生体に及ぼす価値の落差が大きすぎます。
弊社では一貫して、「非抜歯矯正」を原則とする論文の掲載を続けています。非抜歯矯正の成功例を多数見るにつけ、大げさに言えば健全歯の抜歯は「傷害罪」だという意見にも、反対できなくなってしまいます。
上記男子大学生の治療は、今後弊誌誌上で舩津先生からの良好な経過報告が期待されます。ご自身では「当たり前のルーティンな方法」として行った歯科治療が、健康だった若者の人生を狂わせることもあることは、医療関係者としては厳に肝に銘じなければならないように思います。